【ツアーレポート】やりたいことは脱炭素につながる「脱炭素につながる里山再生アイデア探しツアー」

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2024年1月16日(火)〜17日(水)「脱炭素につながる里山再生アイデア探しツアー」を実施しました。

本ツアーは、2023年9月27日(水)に行われたキックオフイベントで「●●したいこと×地域+環境」をテーマにした事業計画や、やりたいことのアイデアを発表していただき、出たアイデアを参考に企画いたしました。

ツアーの舞台は愛媛県喜多郡内子町。
内子町は愛媛県のほぼ中央部に位置し、人口15,000人程の地域です。
市街地の八日市・護国地区は、歴史情緒溢れる町並みが、石畳地区では昔ながらの里山の村並みが残っており、毎年多くの観光客が訪れます。

・企業の新規事業の担当者
・自治体関係者
・環境に優しい暮らしに興味がある方
・内子町に興味を持ち福島から来た方
・バイオマス発電について学びたい方
・脱炭素を切り口に地域を盛り上げたい方

など様々なバックグラウンドやニーズを持つ参加者が集まり、『里山』をテーマに、脱炭素な暮らしやビジネスにつながるアイデアを見つけるべく、内子龍王バイオマス発電所や石畳地区などを見学しました。

地域を守りたい、昔ながらの街並みや村並みを残したいと願う方々とのつながりがビジネス、暮らし方、地域の課題解決といったことにつながっていて、そこには脱炭素へとつながる視点が見つかった、そんなツアーの様子をお伝えします。

ツアーの内容と訪れた場所

【1日目】内容:里山の資源について
①COWORKING-HUB nanyo sign(南予サイン)
②内子龍王バイオマス発電所
③古民家ゲストハウス&バー 内子晴れ

【2日目】内容:狩猟・村並み保存について
④道の駅 内子フレッシュパークからり
⑤大瀬地区
⑥そば処 石畳むら
⑦石畳地区

【ツアー企画・ガイド】矢野奈美さん(ナミノオト)instagram  / note 

地域を守りたい×未利用木材=バイオマス発電
~木を活かして地域を守る。内子町バイオマス発電所~

当日見学した内子龍王バイオマス発電所

1日目は「里山の資源」をテーマに、内子町でバイオマス発電に取り組む有限会社内藤鋼業代表取締役 内藤昌典さんをCOWORKING-HUB nanyo sign(南予サイン)にお招きし、バイオマス発電所に取り組むようになったきっかけや、発電の仕組みなどのお話を伺いました。

有限会社内藤鋼業代表取締役 内藤昌典さん

内子バイオマス発電所は内子町と内子町森林組合、内藤鋼業が連携し、地域の資源である木を活かして「エネルギーの地産地消」を目指した取組みが行われています。

発電所では、隣接する内子町森林組合や林業者が山から未利用木材を内藤鋼業に運び、それを原料とした「木質ペレット」(細かく粉砕した木を固めた燃料)を製造搬入し、それを熱して発生した「木質可燃性ガス」を燃料にエンジンを動かして約1,000kW、1年間で一般家庭約2,500戸分の電気をつくっています。

発電の仕組み(当日配布資料より抜粋)

また、ペレット製造時に出る灰を活用し「バイオマスストーン」という再生煉瓦の製造や、発電事業以外にも地域の山主から木を買取り、現金と地域内の店舗等で使用できる地域通貨券(ドン券)で支払う地域経済の循環と活性化にも寄与する取組みも行っています。

四国最大級の発電量を誇る小型バイオマス発電所を持ち、国内でも有数のバイオマスのプロフェッショナルでもある内藤鋼業ですが、もともとは木材加工の機械販売の事業を行っていました。木材加工の過程で出る木屑を燃やして処分していたところ、1990年代にゴミの焼却によるダイオキシンが社会問題になったことがきっかけで、木屑をペレットに加工し、ペレットストーブやペレットボイラーの取り扱いをはじめました。

地元の小学校や施設にペレットストーブやペレットボイラーの導入が進んでいましたが、ペレットは石油などの燃料の値段が安くなると売れなくなるというデメリットがありました。残念ながら燃料の値段をコントロールすることはできません。

そんな時、身の回りに溢れる木の存在、そして東日本大震災をきっかけにペレットに付加価値をつけられ、環境負荷が少ないバイオマス発電に取り組もうと、内子バイオマス発電プロジェクトをはじめます。

内子町森林組合と木材供給の調整や住民への説明会などを経て、2017年5月事業化に着手し、2018年5月に起工式を開催、2018年10月31日に「内子バイオマス発電所」を竣工しました。

(左)ガス化装置(右上)ペレットの変化(右下)参加者の質問に答える内藤さん

本プロジェクトに必要な資金は地元企業からの出資や地元銀行の融資を受けており、内藤さん曰く「地元が60%以上の株を持っている」とのこと。また住民の説明会では事業を応援する声を多く頂いたとのことで、地元のたくさんの方々とのつながりと想いと共に進められています。

発電事業は苦労も多く、まだまだ利益は少ないとのこと。そんな厳しい状況で事業を続ける理由を内藤さんにお聞きしました。

「内子町にたくさん生えている木の資源を活かして、地域を守りたい。

今日本では燃料を確保するために海外の国に年間約70兆円を支払っていますが、木で燃料を作れるようになったらそのお金が地方に回ってくるかもしれない。

将来的には電気も自治体が取り組まなければいけない時代がくるかもしれません。私たちのバイオマス発電の取組みは、20年間同じ木材量を出すことができる森林組合との連携と、やろうと思う人と強い気持ちがあればできると思っています。

夢は内子町で使う電気代をバイオマス発電でタダにしたい。そうなったら内子に住もうかなと人が集まるようになって、地域がもっと盛り上がりますよね。」

バイオマス発電所は脱炭素やSDGsとして取り上げられることが多いですが、内藤さんの「地域を守りたい」という強い想いがビジネスとつながりを生み、その先にバイオマス発電所という取組みがあったということを学ぶことができました。

里山の豊かな暮らしを伝えたい×資源循環=里山ディナー&アクティビティ
キーワードは「循環」。栗農家亀岡家~

このツアーは宿泊付きで実施しました。バイオマス発電所見学後は宿泊場所でもある古民家ゲストハウス&バー 内子晴れに移動。内子町で栗農家を営む亀岡家の一彦さん・理恵さんご夫婦と里山の食材を使ったディナーが待っていました。

古民家ゲストハウス&バー 内子晴れ
内子の街並み

この日の献立はこちら。
箸は剪定した栗の枝で作られ、通常廃棄してしまう未受粉の栗を箸置きとして活用しています。

(左上)柿と自家製チーズと春菊のサラダ(右上)土鍋の炊き立てご飯
(左下)ニジマスのオーブン焼き(右下)奥地ほうぼく豚のジンジャーポーク

内子町で生産された食材や自家栽培の野菜、耕作放棄地や遊休地を活用し自然環境に近い形で放牧養豚をしている生産者さんの豚肉や、手作りの調味料など、亀岡家のこだわりがぎゅっと詰まった料理はどれも絶品!

食事をしながら亀岡家のお二人から里山の暮らしについてお話を伺いました。

一彦さんは内子町で生まれ育った栗農家、理恵さんはもともと東京で暮らしていましたが、仕事で内子町に来たことがきっかけで一彦さんと出会い、2017年結婚を機に移住しました。

亀岡家は専業農家ですが十分豊かに暮らせています。夫婦二人で無理なく作業が完結することを目指し、農園は広げず販路の新規開拓に力を入れたり、自分らしいペースで過ごすためにワークライフバランスを大切にしたり、農業も工夫次第で自由にクリエイティブできることを発信しています。

このように、家族単位で小さく無理なく里山に関わる暮らしを多くの方に知ってもらう、そのきっかけづくりとして、自然の恵みを活かしたものづくりや、栗の新しい食べ方の提案、自宅の敷地内を解放してワークショップを開催するなど、亀岡家だからこそできることを日々行っています。

亀岡家の暮らしのキーワードは「循環」。その理由を理恵さんにお聞きしました。

亀岡家の亀岡理恵さん

「ものづくりをする際には、なるべくゴミを生まないことを選択しています。農業や暮らしの中で得た素材を有効活用して、増やしたり広げたりせずにできる限り今あるものを活かして豊かにすることを考えています。例えば今日の献立表はこの地域の伝統工芸である手漉き和紙の端切れ、箸置きは剪定で落とした栗の枝を使っています。アイデアや思いを軽やかに形にできるのも、夫婦で活動しているからこそだと思います。

また『こん棒飛ばし』という新しいスポーツにも取り組んでいます。このスポーツでは木で作ったこん棒が必要なのですが、材料を探すために里山に足を運んでもらうきっかけにもなりますよね。

こん棒飛ばしの様子(内子インナーチルドレン|棍棒飛ばし のinstagramより)

私たちがただただ生活を楽しむ、そんな小さな行動ですが、里山の豊かな暮らしに目が向くきっかけになったり、里山への移住や二拠点生活を選択肢に加える人が増えることにつながったりすれば嬉しいです。」

新しいアプローチで里山の魅力を伝える亀岡家のお二人から、里山の資源の循環が生み出す豊かな暮らしを知ることができました。

内子の風景を守りたい×有害鳥獣対策=持続可能な里山の暮らし
狩猟の現場から学ぶ、里山の自然との共存~

大瀬地区山中の畑。動物が入ってこられないように柵で囲っている

2日目は里山の自然との共存の現状と課題について学ぶために、内子町大瀬地区の狩猟の現場へ向かいました。

山道を進み、果樹や畑がある山里で猟師の浪江和希さんと合流。浪江さんが罠を設置した山道を歩きながら、狩猟のことや、里山を守る活動についてお話を伺いました。

内子町の地域おこし協力隊 浪江和希さん

鹿児島出身の浪江さんはもともと会社員として働いていましたが、趣味の登山を通じて猟師へ転職し、2023年に有害鳥獣対策の任務を担当する内子町の地域おこし協力隊になりました。

(左)箱罠(右)くくり罠

里山の自然に近い場所で仕事をする浪江さんに、今の里山の課題と里山を守ることの意味について聞いてみました。

「森林の再生・人口減少・耕作放棄地の増加・生活様式の変化などの問題が重なり合い、野生動物の増加と生活圏の侵入につながっています。

動物は環境の変化に敏感で嫌がりますが、地域の労働力が減る中マンパワーをかけた草刈り等の活動も難しくなってきているのが現状です。

再エネ発電所建設による定期的な整備・環境保全の意見もありますが、根本的な解決策ではないと感じます。

有害鳥獣対策とジビエ振興は別の問題なのですが、焼却(廃棄)する為に捕獲を続けると私自身辛く感じる事もあるので、食肉処理場を通じて誰かに食べてもらえる環境があるのが理想的だなと思っています。内子の風景を守るような活動を今後もしていきたいですね。」


里山に来た人に喜んでもらいたい×村おこし=村並保存・地産地消のそば処
地域の資源を循環させ、村おこしに活かす石畳地区~

石畳地区の風景。左は「そば処 石畳むら」

最後の目的地として向かったのは、亀岡家もお住いの石畳地区。

石畳地区は現在270人あまりの人が暮らし、「日本の原風景」とも称された里山の風景が広がっている美しい地域です。

30年以上前から住民主体の「村並み保存活動」が行われ、水車復元やシダレザクラの保護、農村景観の保全がされ、取組みが評価され平成27年には日本ユネスコ連盟「プロジェクト未来遺産2015」に登録されています。

石畳地区の村並み

石畳地区では地域の資源を循環させ、村おこしに活かすという考えが根付いており、それらは住民たちの手によって行われています。使われなくなった線路の枕木がシダレザクラまでの坂道に使われているなど、村のいたるところで、地域の資源が活かされている様子を見ることができました。

(左)線路の枕木が敷かれた道
(右)石を積み上げて土台にした小屋。トンネルになっている部分には昔家畜の糞を貯めていた

昼食を頂いた「そば処 石畳むら」は、観光名物となったシダレザクラを見に来た人たちをもてなしたいという想いからできたお店です。同じ志を持つ仲間と山形で修業し、日当たりの良い立地と豊かな湧き水でそばを栽培し、季節の天ぷらとともに手打ちのそばを提供しています。美しい里山のおいしいそばを求め、土日のみの営業にも関わらず、たくさんの人が石畳地区に訪れるそうです。

満開のシダレザクラ(ナミノオト矢野奈美:2022年4月3日撮影)
見頃の季節は3月末から4月頭。ぜひ訪れてみてください。
お店の前の畑で収穫されたそば粉でつくった手打ちのそばと野菜のてんぷら
代表の亀田さん(左)

豊かな里山を守りたい人の活動が人を呼び、集まった人においしいものを食べてもらいたいという想いが商い(ビジネス)につながる。結果的にそれは、地産地消という脱炭素の取組につながっていることを、里山の暮らしを巡ることで気づくことができました。

アイデアワーク

アイデアワークの様子

ツアー1日目のバイオマス発電所終了後、脱炭素につながるアイデアを参加者の皆さんの「やりたいこと」や「地域課題」から見つけるための、アイデアワークを行いました。

アイデアワークの様子

出たアイデアをもとに、参加者も一緒になって、どのような取組みにつながるか、ディスカッションを行いました。

一例をご紹介すると、「温泉をつくりたい」という想い×「人口減少による孤立」という地域課題は、地域の人たちが集まりやすい温泉やお風呂をつくる事業につながり、さらには各家庭の光熱費の使用を抑えることになって脱炭素になるというアイデアは、愛媛県が実施している“「温泉でほっ!とシェア」キャンペーン”として既に展開されています。

また、「災害に強い山をつくりたい」という想い×「山の管理が大変」という地域課題は、バイオマス発電・地域電力設立につながることで、「エネルギーの地産地消、山の管理、防災時の電源や熱の調達」が可能となり、さらには再エネ普及からの化石燃料の使用を抑えることとなって結果的に脱炭素につながります。

このアイデアは、このツアーで講演いただいた内藤鋼業の取組みとしてすでに行われていますが、こういった取り組みが内子町だけでなく県内各地域で広がれば、県内全体の脱炭素化につながる可能性を秘めています。

アイデアワークを通じて、「やりたいことがある・地域課題がある」ということはそのためにビジネスを立ち上げたり活動したりする人たちを生むことであり、それらはすべて脱炭素につながっている。脱炭素につながるアイデアは実は身近にたくさんあり、脱炭素社会は楽しい、自分たちのやりたいことがどんどんできる社会になるんだ、という気づきを得ることができました。

アイデアワークで出た様々なアイデア

まとめ

本ツアーは「●●したいこと×地域+脱炭素」をテーマに、里山を通じて脱炭素の視点に気づき、新しいアイデアや仲間を見つけ、脱炭素にもつなげていくことを目的として開催いたしました。

ツアーを通じて里山に関わる様々な方と出会うことができました。

「地域を守りたい」「里山の豊かな暮らしを伝えたい」「内子の風景を守りたい」「里山に来た人に喜んでもらいたい」という「●●したい」という想いは地域課題に取り組む原動力になっていたこと、そしてそれは脱炭素につながるビジネスや豊かな暮らしにリンクしていました。

脱炭素の視点は加えるものではなく、自分の「●●したいこと」の中にあり、それを見つけようとすることが「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしの実現」を目指したビジネスや暮らしにつながっていくことに気づくことができました。

今回のツアーに参加した人からは「内子町に来てみたくてこのツアーに参加したが、熱を必要とする事業をしているので、熱と電気をバイオマス発電でまかなえるような仕組みが作りたいとアイデアが広がった」という声もあり、環境や地域のための「ちょっと何かやってみたい」を見つけ、つながった人たちと実現に向けて動いていくきっかけになったのではないかと思っています。

石畳の豊かな自然を背景に2日目の参加者と

また、今回のツアーはキックオフイベントをきっかけに出会った矢野さんに企画していただいたり、本ツアーを紹介する内子町のSNSをきっかけに県外からも参加者が集まったりと、つながる場づくりプロジェクトとしてはじまったMitsukecca(みつけっか。)が、新しい企画を生み、広がっていることを実感できました。

愛媛には脱炭素につながる暮らしやビジネスにリンクする取組みや、興味を持って動こうとする人がたくさんいます。「やりたいこと」と「地域課題」をかけ合わせ、脱炭素につなげるために「知る、体験する、やってみる」のサイクルを生み出すMitsukecca(みつけっか。)という場は今後どんどん必要とされるのではないかという可能性を感じることができたツアーとなりました。


脱炭素につながる、より日常で取り組めるつながりの場づくりプロジェクト Mitsukecca(みつけっか。)とは